猫 乃 眼

猫に癒され、旅で癒され、マイペース ☆おぐにゃん☆

SISTERS

長塚圭史さんの演劇を初めて観ました。「SISTERS」。

天井から壁を伝い床を切り裂く一本のラインで区切られるエリア。そこで演じられるのはアブノーマルな世界。
一気に恐怖に支配される。
新郎と新婦(馨・松たか子)の二人は、ツインに並べてあるベッドを「わざわざ」くっつけることによって、踏み入ってはいけない禁断のZONEに入ってしまった。
もう一組の男女=父と娘(美鳥)はもともと禁断のZONEのなかで暮らしているから、ベッドは「やはり」密着している。
これが何を象徴するかはストーリーが進むにつれ、次第に明らかになっていく。
父が娘に強要する近親相姦。心身ともにずたずたに深い傷を負ってしまう娘。それを愛だと思いこまされる「美鳥」の悲しさが、不気味な恐怖となって染み込んでいく。
ZONEの内側で演じられる世界はアブノーマルである。そのZONEでは「男」が秘める異様なアブノーマルな欲情が成就し支配する。
本来アブノーマルとノーマルには超えてはならない一線が存在するはずで、それが舞台を切り裂く一本のラインなのだが、それは最初は強力に存在を主張していたはずなのだが、そのうち、禁断の魔性とでも言うべきなのか、容易に?超えることができそうに思えてくる。
そしてクライマックスが近づく。
ZONEを水が覆い始める。ZONEの外に不気味に着々と。
父と娘(美鳥)の二人は全身を水に浸す。水量が増えていく。禁断の罪を水が溶かし、そして毒(彼岸花)を運び広げていく。死によってしか二人は救済されないのか?
「馨」は叫ぶ。「(父は)どうして私でなく妹を選んだの?」
「美鳥」と父の二人も、そしておそらく「馨」の妹も、全身を水に沈め、死によってしか救済されないほどZONEに深く踏み入り、深傷を負ったのだろうか?
「馨」は全身を水に浸すことはしていない。それはZONEの奥底まで入りきれなかったということか?妹はZONEに残り、死によってしか救われなかった。
「馨」はZONEから疎外され生きのびた。しかし「馨」にとってZONEの外で生き延びることは、苦悩を背負い続けることなのだ。本来は祝福されるべき結婚でさえも。
境界を超えて水はさらに増える。ノーマルな日常生活が禁断の罪と毒で侵されていく。このエンドレスの恐怖。

SISTERSで、長塚圭史さんは劇場を恐怖で一気に支配し、私を釘付けにしました。私は最後までその世界から抜けることができなかった。
まるでミルハウザーの世界のようです。癖になりそうな危険性。故に機会があればまた長塚さんの作品に足を運びたくなると思います。
わざわざ重いものを背負いに。